virus

09/01/26

「ハロー?」
『アメリカ頼む、助けてくれ……!』
 突然掛かってきた、イギリスからの電話。お前しか頼れそうな奴がいなんだ、と珍しくデレ全開――否、素直に助けを求められて良い気分にならないわけがない。
 どうやらイギリスの自宅のパソコンが壊れたそうなので、アメリカはロンドンへ飛んだ。

 イギリスは相当狼狽えているらしく、普段ならばアメリカの顔を見るなり紅茶はいるかと訊いてくるのに(それはスコーンを焼いたから食べないか、と同義である)、すぐに彼の部屋へと通された。
「それで、一体何があったんだい?」
「パソコンが突然わけわかんねぇ動きし出して。こっちは何も操作してねぇのに……」
 まぁ十中八九コンピュータウイルスに感染したのだろうな、と思い、アメリカはまずネットワークケーブルを抜いてからパソコンを起動した。
 案の定、パソコンが立ち上がった途端に、ウィンドウがディスプレイ上を動き回ったりおかしなキャラクターのアイコンが出たり消えたりし始めた。
 ウィルスとしては既に古い部類で、パソコンの所有者を慌てさせるのと拡大感染を狙う以外に深刻な被害はもたらさない。ただセキュリティ対策ソフトをきちんとインストールしていれば、そもそも感染じたいしないのだが。
「なぁ……治りそうか?」
「それは問題ないけど。君、パソコンにウィルススキャンも何も入れてないのかい」
「何だ、それ?」
「ああやっぱり! 何も解ってないんだな」
「し、仕方ねぇだろ! 滅多に使わねぇんだから!」
 イギリスのパソコンは、今は誰も使っていないんじゃないかと思うほど型もOSも昔のものだった。そもそもアメリカだってイギリスがパソコンを持っていたことを初めて知ったぐらいである。否、聞いたことがあるかもしれないが忘れていた。何しろ古くさいもの大好きなイギリスはコンピュータやガジェットの類にはとことん疎く、携帯電話のメール機能だってろくに使えないのだ。以前、書類作成はどうしているのかと訊ねたところ、ワープロ(!)を使っているという答えが返ってきた。まだタイプライターではなかっただけマシかもしれない。このパソコンだって、恐らくかなり昔に上司から支給されたとか、そういうものなのだろう。
「念のために訊くけど、このパソコンには仕事上重要なファイルとか入ってないよね?」
「よくわからないからそう言う事はしてねぇよ。上司からのメールをチェックするぐらいだ。それだってほんとたまにしかねぇよ。俺がこういうの苦手だって知ってるから」
「全く、不幸中の幸いだね。『国』のパソコンがウィルス感染して機密情報が漏洩した、なんて事になったら世界中の笑いものだぞ。ところで君、パソコンがこういうおかしな事になった理由に心当たりは無いのかい?」
 するとイギリスは、うぅ、とかあぁ、とか曖昧で要領を得ない言葉を濁してアメリカから視線を逸らした。それでぴん、と来てブラウザを起動させて履歴を見る。

「――エロ大使」

 軽く睨み付ければイギリスはますます下を向く。
「アダルトサイト見てウィルス貰ってくるだなんて、もしうちの政府機関だったら格好のネタになってたぞ」
「う……」
 これでイギリスがわざわざアメリカを頼ってきた理由がわかった。どういう経緯や経由かは不明だが、エロいもの大好きな彼はアダルトサイトの存在を知って興味本位で閲覧し、こういうことになったのだろう。上司達には恥ずかしすぎて打ち明けられないだろうし、イギリスの知り合いで他にパソコンに詳しい者と言えば日本だが、知られたくない度では更に上を行くと思われる。消去法で選ばれたと考えるべきか、唯一弱みもさらけ出せる相手と認められたと思うべきか。精神衛生上、とりあえず後者を選んでおく。
「イギリス。いっそパソコン新しくしたらどうだい?」
「あっあんまり使わないのに勿体ないだろ」
「費用とかの心配しなくても俺がうちの最新式を買ってあげるよ」
 イギリスは胡散臭げな眼差しをアメリカに向けた。当然だろう、他の国にはゲイツゲイツ言いながら売りつけているのだから。
「……お前、何企んでるんだ?」
「君、失礼だなぁ。恋人からのプレゼントぐらい素直に受け取るべきだぞ」
 そう言えばイギリスの顔はすぐに真っ赤になった。ちょろいな、と思う。
「セッティングもセキュリティ対策も全部俺がやるよ。この際だからワープロも卒業したら? インクリボンなんていつ無くなるかわからないだろう?」
「――やっぱ変だろ。アメリカにしちゃ親切すぎる。こ、こんなミスで呼んだってのに」
 珍しくイギリスは誤魔化されずアメリカへの不信感を口にした。
(鋭いなぁ。まぁ、彼のスキルじゃ気付かないだろうけどね)
 新しいパソコンは、イギリスに言った通りセキュリティ対策を万全にするつもりだ――小学生向け並のフィルタリングをかけて。
 彼の病気みたいなものだと解っていても、やっぱりアダルトサイトを楽しまれるのは面白くないのだ。恋人として。
「マイピクチャに俺写真入れておこうかな」
「は?」
 こっちの話さ、と言いつつアメリカはパソコンの電源を落とした。

- 了 -


 結月さまとメッセで話してて出てきた萌え話「イギリスはパソコンに疎そうだけど絶対にエロサイトには引っかかる」を書いてみました。アメリカは絶対ガジェット大好きだろうなー。

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