早食い

09/07/05

「実にばかだな君は」
 溜息混じりのアメリカの言葉に、俺はただ項垂れるしかなかった。だが、顔を下に向けると途端に、喉奥からこみ上げてくるもので気持ち悪さがいや増す。思わず口を掌で押さえると、強い力で肩を押されてベッドに仰向けにされた。
「ぅっ……ぷ!」
「ほら、ちゃんと横になってないと駄目だろう? まったく、ホットドッグの食べ過ぎでダウンだなんて情けなさ過ぎるんだぞ」
 まったくもってアメリカの言うとおりだ。元々身体の調子が芳しくないところにでかいホットドッグを無理矢理詰め込んだのだから返す言葉も無い。ただタオルケットの端を強く握りしめて目を瞑るだけだ。そうすると気持ち悪さが少し引いたような気がしたが、アメリカに対する気まずさは逆に強くなる。それでも俺があんな行動を取った理由はあまり、言いたくなかった。
「で、何で小食の君がホットドッグ早食い競争に出ようと思ったんだい」
――ああやっぱり、そこは見逃してくれねぇか。自分でも思い直せば恥ずかしいから避けたかったのに。本当に単純で、小さな意地だった。

「いっ、インディペンデンスデーっぽい行事に俺が出て平気だったら、お前が余計な気を回す必要ねぇって思ったから……」

 アメリカと付き合い始め、インディペンデンスデー前後の体調不良が皮肉でも何でもない真実だとばれて以来、この時期のアメリカは不自然なまでに俺の体調を気遣うようになった。その際の表情に滲む後悔めいたものが、かえって俺の心を荒い紙ヤスリのように削るのだ。
 確かに、アメリカに独立されたことは俺の半生で最もショックだった出来事だし、忘れろと言われたってきっと一生、忘れられない――でも、こいつには。アメリカには。
「俺から独立したのが間違いだった、なんて欠片も思って欲しくねぇよ」
「イギリス……」
 照れ隠しに顔を背けると、上を向いたほうの頬にアメリカのごつごつとした指が、触れた。軽く撫でられる。
「君、そんな事思ってたのかい?」
「ああ。あの時の俺の涙を無駄にすんな、ばーか……」
 目を閉じたまま笑い顔を作ろうとしたら、今度は頬にちくりと髪の毛の先と、続いて柔らかい感触が降りてきた。

- 了 -


 今年は元々メリ誕更新するつもり無かったんですが、ご本家ブログに更新来てたのと某絵チャでの他の参加者様方の投下に触発されて一気に書きました――と言っても持ち前の遅筆で脱稿は解散直前だったんですがorz
 カナダさんに申し訳ない気分でいっぱいだったので夏コミ原稿終わったらフォローしなきゃ……。

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