手に入れたいもの

08/02/09

「――え? アメリカ、いま何て言ったんだい?」
 カナダは自分の耳を疑った。それほど、アメリカの言葉に現実味を感じることが出来なかった。
「だから、俺は独立するよ。イギリスから」
「そっ、そんな! イギリスさんの何処が不満だって言うんだい? 確かにイギリスさん、最近は君によく小言言うけど」
 だがそれは仕方がないことだとカナダは思っている。二人とも、イギリスと出逢った頃に比べて随分成長し我が出てきた。どちらかというと気弱でひとに逆らえないカナダと違い、昔から「やんちゃ」なアメリカはイギリスの言いつけを守らないことがしょっちゅうある。なので当然、アメリカはよく叱られるはめになる。
「イギリスさんは単にアメリカが心配なだけさ。もっと二人でよく話し合えば――」
「そうじゃない!!」
 突然アメリカがテーブルを拳で叩き、カナダはすくみ上がった。

「そりゃあイギリスの小言は鬱陶しいけど、違うんだ。俺はイギリスが欲しいんだ。彼が欲しくて欲しくて、もうどうしようもないんだぞ……!」

 カナダは、アメリカが悲痛な表情で放った言葉の意味を捉えかね困惑する。
「欲しい、って言ったって、今だってイギリスさんは僕達にとって頼れる保護者だし、優しい兄さんじゃないか」
 自分で認めるのは哀しいものがあるが、イギリスはやはり、フランスのところから連れ出してきたカナダより最初から自分の植民地であるアメリカの方により心を砕いているように思える。ならばそれ以上、アメリカにとって何の不満がありうるというのだろう。
 アメリカはまた、違う違うと言いながら首を横に振った。
「カナダと同じじゃ、彼に庇護される弟の一人じゃ嫌なんだよ。イギリスが俺ひとりのイギリスでなくちゃ我慢できないんだぞ」
「それ、って」

「イギリスが好きだ。俺は彼の弟じゃなくて恋人になりたいんだぞ」

 アメリカの告白は、イギリスを保護者としてしか見ていないカナダにとってあまりに衝撃的だった。同じ顔の兄弟が、いつもより遙かに遠く感じた。
「だから俺は独立する。一人前の国になって、イギリスに弟としてじゃなくて愛して貰えるようになる」
 アメリカの瞳は既に強い光を湛えていて、決意が揺るぎないものであることが判る。アメリカは近いうちに実行に移すだろう。だが、そうしたらイギリスは。
「イギリスさん、きっとすごーく悲しむぞ……」
「カナダは好きにしていいぞ。俺に手を貸してくれても、イギリスに味方してもどっちでも構わないよ」
 でも、とアメリカは、鋭い眼光をカナダに向ける。
「絶対に、イギリスを盗ったら駄目なんだからな!」
 びくりと震えたカナダに呼応するかのように、ティーカップの紅茶の水面が揺れた。

- 了 -


 当初はフランス視点で考えていたのですが、カナダさんという同じ立場の違う国が登場したので、そちらで書いてみました。カナダさんの口調は少なくとも対アメリカに関してはアメリカに似てると思うのですが、なんだか難しい。

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