冬の朝は空があかるく澄んでいる、とイギリスは自転車を漕ぎながら思う。
頬を切る風の冷たさは嫌いではなかった。少し寝惚けた思考をクリアにしてくれるからだ――生徒会長である彼の登校時間は他の生徒達より早い。
キイッ、と甲高いブレーキ音をたてながら、イギリスの乗る自転車は横断歩道前で停車した。
「あ! イギリス、いいところに来てくれたな!」
「アメリカ!?」
脳天気な笑顔で手を振るアメリカの姿がすぐ隣にあり、イギリスは驚いた。どちらかと言えばアメリカは、遅刻ぎりぎりの時間に登校してくるほうだ。
「何でお前がこんな時間に――」
「いいから、後ろ乗せてってくれよ!」
アメリカはイギリスの返事を待たずに、自転車の後部座席に跨った。そのタイミングで信号が青に変わり、反射的にイギリスはペダルを漕ぎ出してしまう。アメリカはイギリスの両肩に手を置くと膝を伸ばした。必然的にアメリカの体重が、掌からイギリスに伝わる。掌と肩の骨が当たる痛さに思わず意識が集中し、自転車の速度が意識しないまま落ちる。
「イギリス。何かふらついてるぞ」
「え? わ、わわっ!!」
突然耳元で声を掛けられ、動転したイギリスはバランスを崩した。
「い、痛っ、て……え」
「二人乗りぐらいで転倒するなんて、君ってほんとに貧弱だな!」
「うるせーよ、お前が重いのが悪ぃんだよ!」
イギリスはアスファルトに尻餅をついたまま叫んだ。
集中力を失った本当の理由は、悟られたくない。
ひどいなぁ、と言いながらアメリカはイギリスに向けて手を伸ばした。
「ほら、つかまりなよ」
「え……」
「このまま君が遅刻したいならいいけど、ヒーローとしては放っておけないからな!」
アメリカはまた強引にイギリスの左手首を掴み、引っ張って彼を立たせた。
アメリカが倒れた自転車を起こす間、イギリスは彼に背を向け、掴まれたところをそっ、と撫でた。
- 了 -
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