「あの野郎。一人で暢気に寝やがって」
イギリスは悪態を吐きながら杭を振るった。
何の因果か彼はアメリカと一緒に遭難し、この見知らぬ島へと流れ着いた。こんなところに閉じこめられるつもりは無かったし、幸い十分な数の流木があったのでいかだを造ろうとイギリスは考えたのだが、一方のアメリカは漂着物の中にハンモックを見つけるなり大喜びで昼寝へと転向してしまった。
「ったく、俺と一緒にいたくねえ、って言うなら少しは協力しろよ――いてえっ!」
手元が狂って杭の先端がイギリスの腿に当たった。幸い流血には至らなかったが、彼の目尻にはうっすらと涙が滲む。だがすぐに乾くはずだったそれは、後から後から溢れて額の汗と混じり合う。
(俺と一緒にいる事が一番の不幸だって? 畜生、そこまで俺が嫌いかよ)
だがそれよりも悔しいのはアメリカの言葉に傷ついてしまう自分自身だ。女々しすぎて嫌になる。普段は怒りを前面に押し出すことで無意識にバランスを取ろうとするのだが、眠るアメリカ以外に誰もいない状況では弱る気持ちに歯止めを掛けられない。
急速に意欲を失ったイギリスは、海に面して膝を抱えた。波の音以外聞こえず、見慣れた海とは異質の碧以外見えない。
「これからどうすればいいんだろうな」
潮風がイギリスの頭上を掠める。
早くこの島から脱出する以外にどうしようもない事は解っていた。だが、イギリスには自信が無い。
(いっそいかだが完成したら俺一人で脱出しちまおうか)
そんな事まで考える。風が今度は顔面に当たった。額の髪を吹き上げる。
「んー……」
ハンモックの上のアメリカが唸り、イギリスは我に返った。
「縄か何かでも探してくるか」
そう呟き、立ち上がる。アメリカが起きる前にいかだを完成させたい。
再び風が髪を攫った。
- 了 -
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