『アメリカ… 回収して欲しいものが、ある…』
――ああ、こりゃ駄目だ。
一目見て、そう思った。
ギリシャに呼び出されて来てみたら、酒瓶を片手に持ったイギリスが、何がおかしいのかケタケタ笑ってる真っ最中だった。顔がすごーく赤い。一体どれだけ飲んだんだろう。
よく見ると、床には壊れた椅子ごとフランスが転がっていた。なるほど、イギリスが上機嫌な理由はわかったぞ。
「もーあいつ酔ったらいっつもこうだしー! 超迷惑してるんよー、マジでマジで!」
「魔除けが効かなかったから… あいつを力ずくで連れていけそうなのはアメリカだけだし…」
ギリシャとポーランドはすっかり困り果てている。はっきり言って今のイギリスは関わり合いになりたくない状態だけど、ヒーローとしては二人を助けてあげなきゃならない。
「わかったぞ」
俺はまだ笑い続けてるイギリスに後ろから近付いて、彼の首根っこを掴んだ。
「イギリス。ほら、帰るよ」
「あめりか……?」
振り返ったイギリスの顔がやたら無防備で、思わずどきっとしてしまう。元々童顔だから余計に幼く見えるよ。
俺が捕まえた途端にイギリスの反応が鈍くなったから、そのまま彼を引きずって帰ることにした。ギリシャ達にはすごく感謝されて、ポーランドからはお菓子まで貰った。色がちょっと地味だけど。
「ちょっ、放せ、よぉ」
外に出ると、またイギリスがじたばたしだした。
「一人で歩けるぞ、ばかぁ」
いっそ俺が手を放したら転べばいいんだ、って思ってそうしたら、イギリスは千鳥足で俺の前に出た。身体が左右にふらついてて、足取りはまるでボックスを踏んでるみたいに見える。
「Alas, my love, you do me wrong, To cast me off discourteously.……」
よりによってグリーンスリーブスを歌うのかい。しかもすごーく楽しそうに!
「君の酔い方ってそんなんじゃなかったろ?」
俺は思わず呟いたが、イギリスには聞こえてないだろう。
イギリスは、俺と呑むときは昔の愚痴ばかり言って絡んでくるのに。俺以外の前で酔うときはいつもこうなんだろうか。
俺が知らない彼の一面があった事が悔しいのか、俺だけが特別だ、って優越を覚えればいいのか、上手く気持ちを言い表せない。
そんな俺の事なんか見向きもせずに、イギリスはまた声を上げて笑った。
- 了 -
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