ぜいぜいと喉が鳴る――自分でも、嫌な音だと思う。
死んじゃやだよ、と震える声で言うアメリカの顔はイギリスの視界の中で霞んでいた。アメリカはまだ言葉を続けていたが、このままでは伝えられなくなると感じたイギリスは彼の名を、呼んだ。
「今までお前とは喧嘩ばっかりしてきたけど、お前の事嫌いだったわけじゃないぞ」
だって俺、と、肝心なところを言おうとした刹那、骨張った掌がイギリスの口元を覆う。滑稽な音のくしゃみと共に、イギリスはかくり、項垂れた。
ああ間に合わなかった――最後だから絶対に、伝えたかったのに。
しかし意識が遠のく瞬間、聞こえてきたのは「やった!」などと言う信じられない言葉で。
「イギリスがくたばった! 記念に酒飲みに行こう!」
アメリカが自分を疎んじているのは知っていたが、その言い草はないだろう。反射的にイギリスは、不満の声を上げた。
「え――!」
「な? こうすると起きるって言ったろ?」
したり顔のアメリカが、骸骨の仮面を被った何者かに言う。イギリスは自分が上半身を起こしていることに気がついた。覚悟を決めたはずなのに、生きている。
「やあイギリス。地獄の縁から甦った気分はどうだい?」
「誰が地獄行きだばか!」
「いきなりそんな口きけるんなら平気だな!」
ニヨニヨ笑っているのだろうアメリカにイギリスは、スラング混じりの罵詈雑言を危うく、浴びせかけた。
踏みとどまったのはアメリカの頬に、ひとすじの跡を見つけたためだ。
「アメリカ……」
「こっ、これは違うぞ!」
慌てたアメリカは目元を擦るが、彼の瞳からは涙が次から次へと溢れるのだった。
- 了 -
|