イギリスの腕前で掛け値無しに褒められるところがあるとすれば、それは刺繍と庭の管理だ(逆は勿論、言うまでもない)。
彼の庭は、とりわけ初夏になると咲き始める薔薇によって輝きを増す。イギリスには国花と呼べる花が四つあるが、本質としては薔薇こそが彼の花だろう。
その日は休みで天気も良かったので、イギリスは庭に出て花殻の処理をしていた。美しい庭を維持するためには大変な労力が要るが、イギリスはそのような作業が嫌いではない。
イギリスの視線が、或る一角に留まった。
真っ赤な大輪のハイブリット・ティー・ローズ。華やかなその花の名はアメリカン・スピリット。
『これ最近うちで作ったんだ。君、花が好きだろう?』
何年か前のこの時期、アメリカがこの薔薇の花束を土産に持ってきた。
イギリスから見てもなかなか良かったので、どうせなら苗の方持ってこいよ、と言った。その後のアメリカは何故か機嫌が悪かったのだが、後日ちゃんと新苗を送ってくれた。
イギリスが花束の意味に気がついたのは、秋の庭に再び薔薇が咲き誇ってからだ。
「イギリスー。なんだ、庭にいたのかい?」
「おい。不法侵入だぞ」
「何回呼び鈴を鳴らしても君が出てこないのが悪いんだぞ! ――あ。その薔薇もう咲いたのか」
蕩けるほどに甘い笑みからイギリスは咄嗟に目を背けた。頬が熱いのが自分でも判る。
アーチに絡んだ白薔薇の花殻を、イギリスは一つ摘むとアメリカの胸元に押しつけた。
「これやる」
「え?」
「あんな回りくどい方法考えたお前なら解るだろ」
赤い薔薇は愛情を。
枯れた白薔薇は生涯の誓いを。
- 了 -
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