今朝のイギリスはやたら上機嫌だ。鼻唄混じりにパン切りナイフを動かしている。彼は薄くてカリカリのトーストが好きだけど、これは一体何枚焼くつもりなんだろう。もしかして黒焦げにした時のための保険だろうか。イギリスには有り得ない話じゃないけど。
「あ。アメリカ。ちょっと待ってろよ、いまサンドイッチ作ってっから」
そうかサンドイッチか。だったら予定の倍切らなきゃいけないからな。でも具は何にする気なんだろう。彼は食べ物を不味くする事にかけては天才的だから心配だ。単純なキュウリのサンドイッチすら水っぽくて台無しになる確率が高いし。
そう思って様子を伺っていると彼は戸棚に手を伸ばした。良かった、ジャムサンドなら失敗が無いぞ――ってその瓶は!!
「マーマイトだけはよしてくれよ! においからして勘弁だぞ!」
「何だとマーマイトばかにすんな! ビタミン豊富で身体にいいんだからな!」
だったら俺は錠剤飲むぞ。あの塩辛いのよりずっと良い。
「どうせならマーマレードのサンドイッチにしてくれればいいのに」
「クマになる気か?」
ああ、パディントンはイギリスのところの話だったっけ。
「……ったく、昔のお前は俺が出すもの文句一つ言わずに食ってたのに」
「あの頃だって本当は我慢してたんだぞ。言わなかっただけで」
俺が言うとイギリスは情けなそうな顔になった。これは間違いなく、俺の演技をずっと信じてたんだなぁ。
「だって、そうすれば君はすごーく喜んでくれたからね」
そう付け加えると今度は顔が真っ赤になった。
ああ、君とこんな会話ができる日常はなんて素晴らしいんだろう。
ちょっと、いやかなり食事が不味くたって構わないよ。
結局、イギリスが切ったパンは半分がトーストになった。
残りはきっと、お茶の時間にもう一度何のサンドイッチにするかで揉めるだろう。
- 了 -
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