ヘタリア二巻を記念した壁紙用の撮影のあとだった。おまけというかお遊びで何枚か他国の服を着ている写真を撮ることになり、その一人にイギリスが選ばれた、とカメラマンに告げられた。
「わかった。で、俺は誰の服を着るんだ?」
「アメリカさんです」
イギリスは驚きのあまり声を上げかけたが、周囲の目もあるのでそれを呑み込んだ。
アメリカにはイギリスより先に話を通してあったようで、その場でアメリカの軍服一式を渡された。
更衣室に戻って着替えるとき、必要以上に緊張した。
イギリスとアメリカとでは体格が違う。身長も頭一つ分抜かれたが、何より肩幅と身体の厚みが段違いだ。ボンバージャケットの肩口はイギリスの肩からずり落ちて、結果手首から先も袖に隠れてしまっている。
胴回りは――やはり、幾ら美味しくてもハンバーガーの食べ過ぎは止めさせよう。
着替えたイギリスがスタジオに戻ると、軍服の代わりにラフな格好をしたアメリカがいた。
「貧弱な君にはその格好は似合わないな! やっぱりヒーローの俺が着ないとね!」
「うるせぇ! 俺だって仕事じゃなきゃ着たいと思わねぇよばか!」
フランスが「本当かぁ〜?」とニヨニヨ笑うのを一睨みする。
今撮影に入っているのは、シーランドの服を着たラトビアだ。自分の出番まではまだ少し、時間があるだろう。イギリスは壁に寄りかかる。ジャケットの襟のボアが顎にふわふわと当たった。
組んだ腕をぎゅうと掴む。これはアメリカの服。彼がいつも着ている、彼のにおいと体温が染み込んだもの。それらを感じ取るとまるでアメリカの腕に優しく包み込まれているかのような気がした。
(うわ……! やばい、マジでやばい)
想像しただけで興奮する。冗談抜きでこのままイくことすら出来そうだ。
「おいおいイギリス……その顔、流石にお兄さんもドン引きー」
「えっ」
フランスに呆れたように言われてイギリスは我に返った。アメリカが横でDDDD、と笑う。
「君、俺の服汚さないでくれよ!」
何を考えていたのか見抜かれて、イギリスの顔はみるみるうちに赤くなる。
「ううううううるせぇばかー!」
アメリカはイギリスの罵声をいつも通りスルーし、カメラマンに何か話しかけている。
「イギリス。君の撮影はウクライナの服着たラトビアと入れ替わったみたいだぞ」
だからまだ時間があるよね、とアメリカはイギリスの手首を掴んだ。
「お二人さん、ごゆっくり」
フランスに意味深に言われ、イギリスは涙目になった。
- 了 -
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