「……拍手しても構わないかい?」
俺はすごーく真面目な顔で言ったのに、イギリスはたちまち苦虫を噛み潰したような表情になった。
「お前それ、ばかにしてんのか?」
「ひどいなぁ。俺は真剣に褒めてあげてるんだぞ」
今日のティータイムに出されたスコーンは、どこも焦げてないしぺちゃんこに潰れてたりしてないし、石みたいに固くもない。味も塩の入れすぎで悲惨なことになったりしていない。ほんとに普通に美味しいスコーンだった。
「君でもまともな食べ物を作れるんだなぁ。俺、イギリスの事見直したぞ!」
「だからそれがばかにしてる、って言うんだよ!」
正面からバターナイフが飛んできたので、俺はひょい、と首を傾けてかわした。まったく、乱暴だなぁ。普段大事そうに磨いてる銀食器を投擲武器に使うだなんて。
俺は笑ってイギリスに言う。
「むかし俺に『食事中はマナーをちゃんと守れ』って説教してた君が今のを目撃したらなんて言うだろうね! それともナイフ投げはマナーの一環?」
イギリスはぐぅ、と悔しそうに唸って俯いた。あの肩の強張り方、きっとテーブルの下に隠れた拳は両方ともぎゅうぎゅう握りしめられてるに違いない。
「……くそっ、文句あるなら食うな」
「だから、さっきから俺は文句なんて一言も言ってないぞ。せっかく褒めてあげてるんだから素直に受け取ったらどうだい?」
「お前の言い方だと褒めてるように聞こえないんだよばか!!」
俺は怒鳴るイギリスを無視して、次のスコーンに手を伸ばした。
「こんな美味しいの、次はいつ食べられるかわからないからな!」
――溢れそうなほどジャムを塗ったやつを囓ろうとしてたタイミングだったからか、次に飛んできたティースプーンは見事俺の額に命中した。
- 了 -
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