気がつけば夜が明けていた。
小鳥の囀りでその事実に気付いたキースは腕の中の花束に視線を、落とした。
「彼女は来なかったのか……」
毎日のようにこのベンチに座っていた少女。ジェイクとの戦いの後自分を見失いかけていたキースに大切なことを取り戻させてくれた人。
話し掛けても端的な返事しかくれなかったが、その態度がかえって己の無力さに悩んでいたキースには好ましかった。気がつけば恋に落ちていた。
(君のおかげで私はひとつ大きな仕事を達成することが出来たんだ――ありがとう、そしてありがとう)
少女の不在にキースの胸は痛む。
「まさか、具合を悪くしたのでは……」
思い返せば少女はかなり色白な方だった。ややもすると生気の薄い受け答えと言い、もしかしたら身体が弱いのかもしれない。
キースは少女の名前を知らない。そして自分もまた彼女に名乗っていない。だから今回こそは自分の名前をと心からの礼、そして自分の想いを告げたいと考えていた。しかしそれは失策だったかもしれない。万が一彼女が入院していた場合、名前さえ判れば病院を探し当てることも可能だった。
いや、とキースは首を横に振る。物事を悪く考えるのはよくない。単純に昨日は大切な用事があったのかもしれない。
ベンチに花束を置き立ち上がったキースは掌を組んで伸びをした。一度家に戻ってジョンを散歩させなければ。
もしかしたらジョンの鼻は少女を憶えているかも知れない、と考えながらキースは、再び花束を抱えて公園を立ち去った。
- 了 -
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